空腹ディナーデート

先輩の愚痴を聞いていたら退勤時間の18時を過ぎてしまった。駆け足で帰る準備をし、喫煙所に向かう。8時間半の疲れを煙と共に吐き出しながらLINEを立ち上げる。

 

 

「今日お店で食べるでいいよね?」午後3:42

「まだ終わらない?」午後6:17

 

「仕事長引いたから19時ぐらいになる😂」午後6:18

 

 

はぁ。めんどくさいなあ。と思いながら、最後のひと吸いを終えたので鎖骨に香水を吹きかけ、バス停に向かう。某アプリで出会った32歳男性との3回目のアポの日だ。なんでこんな何回も会ってるのか正直分からない。恋人にしたいわけでも好きなわけでもない。ただなんとなーくゆるゆる会っている。多分、暇な時間を人と会うということで消化したいだけだと思う。

 

 

首都圏の緊急事態宣言が21日まで伸び、世間の飲食店は20時に締めることになっている。元々18時半に待ち合わせだったが、仕事が長引いた為私が現地到着するのは19時。お酒の提供は19時に終わるので、大体のお店は19時にラストオーダーになる。さあ、この人はどんな計画を立てているのか見物である。仕事が長引く事まで考えているのなら、株は爆上がりするのだが。

 

 

「やっぱりもうちょっと早上がりの時にする?」午後6:43

 

(は?無計画ならもっと早く言えよ。)

 

「とりあえず向かうで平気?」午後6:46

 

「おっけー。改札の近くに喫茶店あるんだけど、やってるか見といてくれる?」午後6:48

 

「はーい!」午後6:59

 

 

とまあ、見事に無計画だったのだ。(そして近くの喫茶店の営業時間を私に確認させる始末)待ち合わせ場所は彼の勤務先のあるところだったので、詳しいと思っていたし、私が仕事で遅くなるのは申し訳なかったが、不測の事態が分かってから待ち合わせまで40分もあったはずだ。この日だけならいいが、以前のデートでも特別予約などは無く、基本的に無計画だったので、正直ほぼほぼ諦めていた。私より10歳上の男がこれなのだ。私のほうがもっと上手くやれる。(現に私は電車内でラストオーダーが19時半の飲食店を探していた)そう思った時点でこの人との将来はないと断言できるのだが。

 

 

結局待ち合わせ後もやってるはずのない居酒屋をとりあえず周り、近寄って営業時間も見ずに歩き回るという謎のお散歩タイムを経て、LINEで話していた駅前のカフェに入ることになる。だったら最初からそうしておけば、私が寒い中薄着で歩き回ることはなかったのでは?と思うのだが。

 

 

カフェに入ってロイヤルミルクティーを頼む。私は当然その場では財布を開けることはしないので、(男性側のプライドがあると思っているため。後にちゃんと返すようにしている。)レジ前で突っ立っていた。

 

「ごめん。小銭ある?」

 

あぁ。釣り銭細かくなるの嫌なタイプか。と思いしかたなく財布を開けたが、私もちょうどいい小銭がなかった。

 

「ごめん。ないや😥」

 

「あ、じゃあ電子決済できますか?」

 

 

カフェ代は1000円未満。今日女性と会うって予定があったのにも関わらず、自分が持ってる現金がどれくらいかも把握してないのか。私は財布の中身をしっかり把握していないと気持ち悪いし、友人と割り勘することを想定して大きいお金を崩すほどの徹底ぶりなのでドン引き。それで、レシートを渡されたときのいらないですの返事が少しキレ気味。そこでますますドン引き。

 

 

私は思っていることが態度に出るタイプなので、寒い中無意味に歩かされたことと、レジ前でのもたつきと態度の悪さに少し言葉数が減った。更にドン引き案件だったのが、私に断らずに奥のソファ席にドカっと座ったことと、私のロングコートを椅子にかけたときに裾がついて困ってるのを見ているくせに「こっち置こうか?」などの気遣いが皆無だったこと。そしてミルクティーが全く甘くなかったので、砂糖を持ってこようとして私が席を立ったときに「俺が持ってくるから座ってて」ではなく、「俺のも持ってきて欲しい」と言われたこと。やばい匂いしかしない。

 

 

私の目が三角になりかけ、溜息をつきたかったのは紛れも無い事実なのだが、私も22歳の仮にも「大人」である。相手の時間を奪っている以上は、変に空気を悪くするわけにもいかないので、相手が興味を持って聞いてくれそうな仕事の話をして、その場をもたせる。正直もっと込み入った話をする気力も残ってなかった。その後、相手も喫煙者なので、喫煙所で一服して解散。私は空腹のままである。

 

 

これまでに何回もイライラしてきたことは正直あるが、ここまでイライラ皆勤賞なのも中々ない。もしかして童貞なのかな…(笑)なんてことを思いながら帰宅している。私が年上が好きな理由は、私が何も言わなくても完璧にできるという安心感と、余裕のある雰囲気である。そこが期待できない年上男性に魅力を感じることなどない。元々期待値が高い分、がっかり感が増すのもあって、一度期待を下げられるとどんどん冷めが加速していく。

 

 

無駄な時間を過ごした。だったらとっとと帰って早くお風呂に入った方がマシだ。そんなことをぶつくさ思う。そもそも、早めに見切りを付けているのなら会うのやめたらいいのに。多分これを読んでいる皆さんはそう思うだろう。ド正論だが、私のこの日記のURLを見てほしい。

 

 

私は「婚活ビッチ」なのだ。

 

 

婚活と称して、彼氏判定が出なかった男性を今まで食い尽くしてきた女だ。そんな私が、継続的に会っている男を手放すわけがない。

 

 

とりあえず24日の予定を立てつけた。この日に何もなかったらもう見切りつけるか、飲酒してから電車で向かおうかともすら思った。恋人として考えてありえないと思った人は、セフレとしてできるかできないかとして見るのが一番である。数多の男が私にそうしてきたように。

 

 

やばい。バスの発車時間まであと2分だ。

 

 

下ろしたての春コートの裾を手で持ち上げながら階段を駆け下りる。せっかくお洒落してきたのにな。褒められもしなかったな…。バスに駆け込み、座席に座って落ち着いた頃、鎖骨に吹いた香水の香りが薄くなり始めたのを感じた。と同時にお腹の音が鳴った。