元彼が結婚したらしい(前編)

私の日課に「元彼のSNSチェック」がある。なぜこんなにも人々は過去に別れた人間の動向が気になるのか。そんなことを冷静に考えられるぐらいには、彼に興味も関心も、未練も全く無いはずなのだが。何故か見てしまう。中毒性がある。

 

 

今日もいつも通りアプリを開く。月曜日。元彼は土日休みだから、今日は特大ネタが上がっているはずだと思った。

 

春に女と動物園デート

夏は女と一緒に花火。プロポーズに使ったであろうピンクのダサい造花の写真。

秋は両家挨拶。

 

10時間前…独身最後の晩御飯という言葉と写真。

 

 

時は遡り1年ほど前、私と彼は街コンで知り合った。ズラッと並んだ男性陣の内、一際目立つ存在がいた。それが後に私と付き合うことになる「彼」だ。

 

私の猛アピールの末、彼が告白する形で付き合った。一昨年のクリスマス前の冬のことである。

 

 

彼は優しい人だった。

仕事で挫けてしまったときに、抱きしめて慰めてくれた。物腰も柔らかくて、口下手で。私の話をうんうんと、ニコニコ笑って聞いてくれた。そんな彼が好きだった。のだが。

 

来る春、新型コロナウイルス感染症により、初めての「緊急事態宣言」が発令された。得体のしれないウイルスにより、日本のみならず世界は恐怖に包まれた。仕事は自宅待機が増え、勤務形態もガラリと変わった。

 

「最近コロナやばそうだし、仕事も自宅待機になってる日もあるから、しばらく会うのやめない?」

 

「え?なんで??家で会う分にはいいんじゃない? 」

 

「不要不急の外出に電車使うのは気が引けるんだけど。しかもあなたと会うためじゃなくて、コロナが猛威奮ってるから仕事自宅待機になってるんだけど」

 

「俺も在宅になってるよ。リスクとしては同じなんじゃない?」

 

 

話が噛み合わない。というか、私の事云々より自分のことしか考えてない…??

 

 

そこからというもの、ほぼ毎月喧嘩をしていたように思う。私は彼の家まで電車で行っていたのだが、大雨なのに無理やり私を来させようとしたり、私が許せないような冗談を言ったり。私はその度に、「この人の優しさって何なのだろう」と思った。

 

 

同じことの繰り返し。お互いに言い合って、お互いに譲らない。何度「別れる」とLINEで送りかけただろう。もう疲れた。

 

私のことを考えてのことだと思っていた優しさも、自分を「優しい人」に見せたいだけだと気づいたとき、私の中で何かがプツリと切れた音がした。

 

 

付き合ってから1年が経った。仕事を終えて晩御飯のモツ鍋を食べている時、結婚の話になった。もともと彼は結婚願望が強い人だった。でも私はこの時、「彼」と結婚する気はサラサラなくなってしまっていた。

 

崖っぷち。首の皮一枚繋がっている状態。いつ別れてもおかしくなかったと思う。

 

交際一年を期に、もう一度ちゃんと、その「結婚」とやらの話しておかないといけないと思った。いつかは言わなきゃの、いつかが来た気がした。

 

 

「私に結婚する気は今ないよ。これからどうする?」

 

 

そう伝えた。

 

グツグツと煮えるモツ鍋を前に彼が黙りこくってしまった。そんな悲しい顔しないでよ、あとでちゃんと話そう。と慰めるも、目を真っ赤にした彼は黙々とモツ鍋をつついていた。少し可哀想な気もしたが、私の人生に関わることだから、この時しっかり彼に伝えたことは後悔していない。

 

とりあえず家でゆっくり話そう。ということになったので、お店を出て二人で歩いた。寒さが肌を突き刺す。彼が微かに震えている。今思えば、寒さではなく、泣いていたのかもしれない。

 

今日が最後になる気がする。

 

この予感はお互い同じだったように思う。(後編に続く)